「ファイターパイロットへの道」の第3回目です。
第2回目では「フライトプランを基本」にして飛ぶことによって思考能力を簡素化し、それを続けることで
- 空中での思考能力が鍛えられる
- 空中での視野が広がり情報収取能力が鍛えられる
と言うことを説明しました。
今回も同じように「基準」について私の考え方を説明したいと思います。
基準を知り基準をつくる
今回のテーマは
基準を知り基準をつくる
です。これも前回の思考に関連していますし、思考するための重要な情報にもなります。
フライト仲間と会話していると、よく話題になるのは
- サーマルがどこにあるかはどうやってわかるのか?
- どれくらいの高さがあればゴールまで届くのか?
などの質問を受けることがあります。サーマルの出そうな場所の特徴や、ゴールまでの距離に応じた高度を論じることになりがちですが、本当にそれで理解できて実戦で使えるようになるのでしょうか?
考え方は同じでも、機体も違えばスキルも違うし気象条件も違うとなれば、それは不確定要素の多い
概念や理論だけの話
となってしまいます。
こんな質問をしてくる方に理論を説いても空中で実践してもらえる可能性は低いです。なぜならば
何も考えてないから
ですね。正直、「ゴールまで届くか?」とか「ランディングまで届くか?」なんて質問をされても
「そんなもん知るか!!」
と言いたいのが本音。その状況にいる自分自身にわからないことが、私にわかるはずがありません。
今の話に身に覚えのある方も安心してください。ちょっとした考え方や意識の向け方を変えて訓練することで改善することができます。
実は、こうなる原因は
自分の機体や機体から得られる情報の基準を知らない(持っていない・作っていない)
からなのです。ですから、基準を知り基準を作ってしまえば全て自力で判断できるようになります。
機体の基準を知る(作る)
パイロットである以上、絶対に知っておかなければならないのは
自分の乗っている機体の基準
です。これを知らなければお話しになりません。
飛び方の基準
まず、自分の機体はどんな風に飛ぶのか?と言うことです。具体的に言うと
- 沈下率
- 大気速度(もしくは代替的に無風時に測定した対地速度)
でしょうか。これを知ることに何の意味があるのかと言えば
- どこまで飛ぶか計算することができる
- 風向きや風速などを感覚的に知ることができる
のですが、そんなことは今や複合バリオやXC-Trackなどのフライトコンピューターで計算してくれます。なので、楽してわかることは道具を利用してもらって結構なんですけど、基準を知り作る最大の目的は
異常を検知(感知)できるようにすること
なのです。
今の沈下率や水平速度の基準を知ってれば、僅かなシンクやリフトに入った場合に
「あれ?いつもより沈むなぁ」
とか
「いつもより沈まないなぁ」
と気付くことができます。異常を検知(感知)するには、それと比較すべき
通常(正常)の状態=いつもの状態
を知っていなければ不可能なのです。
沈下や速度はバリオで計測することになりますが、最終的な目標としては
感覚的な目線
で判断できるようになるのが望ましいですね。そうなれば、目線だけで届くかどうかの判断が瞬時にできます。数値に頼っている間は計算しなければ答えは出ません。でも、空中で計算は難しいです。
最終的には感覚の精度を高めていくのが目標となりますが、目線については別の機会に説明したいと思います。
テンション(プレッシャー)の基準
次に知るべきは
テンション(プレッシャー)の基準
です。これには
- ブレークコードのテンション
- ライザーのテンション
- ハーネスのお尻にかかるプレッシャー
などがあります。これも、普段はどれくらいのテンションなのかを感覚的につかんでおきます。そうすることで
- 上昇帯に入ればテンションが強くなる
- 下降帯に入ればテンションは弱くなる
と言うことが分かるようになりますし、サーマルの周囲に発生する
サーマルに引かれる気流による滑り
なども検知することができます。また、気流の乱れや危険な空域に近づくと感じる
嫌な空気感・ムード
も検知することができます。これは言葉では説明できません。ゴメンナサイ。
この沈下や速度、テンション(プレッシャー)の基準と情報を組み合わせると、自分の機体がどんな風に飛んでいるかを高い精度で知ることができるようになります。
そのためには、基準をしっかりと知り、作る必要があります。
朝一や夕方の静穏な時間帯にぶっ飛んでデータを取るのも良いですし、フライト中によく目にするバリオの数値を記憶するのも良いでしょう。また、GPSログなどを利用して統計的に算出する方法もあるでしょう。どんな方法でも良いですから、自分の機体の基準を知り、基準を作り、それを常に意識しながら感覚を徹底的に覚え込ませる訓練を行うのです。
より多くのことに気を配る
今言ったことを実践することで、最終的に何が変わるのか?
- 機体を操縦するパイロットが
- 機体の飛行状況や機体から伝わるテンションによって
- 気流や飛行状態などの情報を知ることができ
- それを元に思考することでさらに多くの情報を得ることができる
と言えるでしょう。それはすなわち、あなた自身が
より多くのことに気を配ることのできるパイロットになることができる
と言うことでもあります。つまり
- 視野が広くきめ細かい観察力が鍛えられる
- 少ないINPUTで多くのOUTPUTを得られる
と言う能力を手にすることになるのです。
パラグライダーは頭を使うスポーツだと思います。とにかく感じ、観察し、考えなければファイターパイロットになることはできません。
道具も良いですが、人間の感覚も磨けば精度が上がっていくものです。わたしは隊員には
感覚(主)-道具・機材(従)
だと教えています。そうしなければ、道具がないと何もできなくなるからです。
最初は道具が主でも構いませんが、いずれは自分が主になって判断してください。
ゴールが見える日本の大会では「ナビが届くと言っているから行く」のではなく
「俺も届くと思うし、ナビも届くと言っているから行く」
になってもらいたいですね。