「ファイターパイロットへの道」の第8回目です。
前回は「不安」について考えてみましたが、今回は天気(気象)に関する話をしてみたいと思います。
天気がすべて
パラグライダーに限りませんが、アウトドアで遊ぶものはお天気に大きく左右されることになります。
特にパラグライダーはそれが顕著であると言えるでしょう。晴れていなければならないし、風向きや風速も大切です。
ソアリングすることを考えると、大気が適度に不安定で積雲が発生するような条件が望ましいなど、遊べる気象状況の範囲がとても狭い特徴があります。
もちろん、講習条件と言われるような安定した日も基礎訓練には必要ですが、お天気次第で飛べたり飛べなかったり、高く上がれたりダメだったりと
ホントに天気がすべて
と言える遊びなんですね。
それ程に重要なお天気(気象)について、みなさんはどの程度知識や情報収集を行っているでしょうか?
昔は気象情報を入手する手段があまりなかったのですが、現在はネットでいくらでも詳細な気象データが手に入ります。地上天気図や高層天気図、ピンポイント予報やウィンドプロファイラ、エマグラムなどなど。いやはや、ホントにいい時代になったものです。
天気を気にする
週末に飛びに行く場合や大会がある場合などは、早くから天気予報や週間予想天気図などのデータを見て一喜一憂するのがパラフライヤーの性と言うものでしょう。
普段からお天気には敏感な生活を送っていることと思います。
気象に関しての専門的な知識は是非とも勉強してもらいたいのですが、それだけでなく普段から自分の周りの天気に関する現象について観察することが大切だと思います。
気象データは比較的広範囲な状況を予想したものであり、パラグライダーで飛行するような範囲をピンポイントで予想するものではありません。パラグライダーの気象は
局地気象
と言われる狭い範囲の状況を必要とします。
- あの谷の風向や風速は?
- あの山のどこにサーマルがあるのか?
- どこで風がぶつかっているか?
などと言った話は自分で観察し予測するしかないのです。
しかし、これがフライトする上では重要なデータになってきます。このデータが多ければ多いほど、実際の気象を上手く利用したフライトができるようになりますし、そのデータを元にした気象予測もできるようになります。
観察するクセをつける
天気を観察する場合、何でもかんでも見れば良いと言うものでもありません。やはりポイントと言うものが必要でしょう。
私が隊員にレクチャーしていることとしては
兆候となるものを探すこと
をポイントとしています。例えば
- サーマルのある兆候
- 海風の入る兆候
- これからコンディションが良くなる兆候
など、それぞれが思い浮かべる現象の発生を示す目印を探し
その精度を高めることを観察する最大の目的にしましょう・・・
と言うことです。
これらを行うには、自分の身近な環境から始めるのが良いでしょう。例えば
自宅からエリアに来る道中での風向きや強さとその日の条件の関係
が分かれば、朝の早い段階で今日の条件を予測できるようになりますよね?
また、エリアに到着してからも周囲の状況や雲の出来具合、風の入り具合などを細かく観察することで自分のエリアの
時系列気象パターン
が分かるようになります。それと同時に
エリアで起こる気象現象の兆候
も発見することができるようになります。エリア管理者はこのデータを豊富に持っているので、危険な状況をいち早く察知して警鐘を鳴らすことができるのですね。
この兆候を探すために私が昔取り組んでいたことを簡単に挙げてみると
- ランディングの風が入る時間
- テイクオフに風が入る時間
- テイクオフに風が入っている時間の長さや強さや間隔
- 雲のできる位置(場所)や形
- 雲のできている時間や間隔
- 山の斜面の風の通り道
などを毎回観察し、実際に自分が飛んでみて感じた風やサーマルの有無などを関連付けて知識として蓄えて行きました。
それはフライトプランを考えるベースになりますし、フライトの重要なデータとして利用できる財産となります。
もちろん観察する項目はこれだけではありませんが、このように
- 気象状況を観察し周囲の風をイメージする
- それらを固有の地形などの状況と関連付けて行く
と言うことを繰り返し行うことで
地形と気象現象の関連性
を身をもって体験し経験値として積み重ねることができたのです。
こんな地形の場合はこんな感じ
と言う理屈が自分の中に出来上がるので、自分の知らないエリア(初見のエリア)であっても応用が可能になってきます。
とにかく、自分でイメージすることが大切になります。
自分の気象モデルを持つ
私が隊員などに大会で訪れたエリアを説明する場合には
ここは○×のエリアを大きくしたような感じ
とか
ここの前山は立山の美女平みたいな感じ
などと、お互いが知っているエリアをモデルに説明します。名前は違っても地形的な特徴が似ていれば、吹く風やその振る舞いは似通っているからです。
このように自分の気象モデルを持つことで、その応用範囲は大きく広がります。例え大会などで知らない場所へ飛んで行ったとしてもすぐに使える知識となるのです。
気象は現場で起きている
大会などでは詳細な気象データを提供してくれますが、それに拘りすぎるのは禁物です。先ほども言ったように気象データはある程度大きな範囲によって計算されたものですから、私たちが求めるような局地的な気象を予測するのに向いていないことが多々あるからです。
それから、それらの情報を利用したい場面と言うのは実際にフライトしている時です。その時に細かい情報をすべて頭に叩き込んでいる方はともかく、一般の方はそうではないと思います。その時に必要になるのが
- 目の前で起きている現象を目で見て理解する
- その現象を元に今後起こりうる現象を予測する
と言うことではないかと思います。その能力を鍛えるためには、
- 日ごろから観察するクセをつけ
- それを元に気象や気流をイメージし
- 実際にフライトして状況を確認し
- その振る舞いの理由を思考して自分のモデルを持つ
と言うことを繰り返すしかないのです。
パラグライダーのフライトで大きな影響を及ぼす気象条件ですが、観察する能力を高めて行くことで自身のフライトがより精度の高いものとなって行くでしょう。
日々の生活の中でも取り組める内容ですので、ぜひ実践してみて下さい。