「ファイターパイロットへの道」の第14回目です。
前回は「先行者になること」について話しました。
レース全体とは言わないまでも、誰もいない空域を単独で突き進めるだけの勇気や意思が必要であることはお分かりいただけたのではないか?と思います。
今回は「タスクセッターとしての視点」からタスクについて再度注目してみたいと思います。
タスクをつくる
大会では必ず「タスク」が提示され、その「タスク」をまわることで自身の成績が決まることになります。選手である以上はこの「タスク」は常に提示される側と言うことになるわけですが、一方で
タスクコミッティー
と言う人たちも存在しています。これは、大会が開催されるエリアに熟知した選手や競技委員長などからなる
タスクを協議するメンバー
と言えます。このタスクコミッティーは一般の選手が選ばれますが、ほとんどの場合は予め大会主催者が選手を選考し、ジェネラルブリーフィングで選手の承認を得る形になっています。しかし、ほとんどのルールブックではタスクコミッティーは立候補が可能になっています。つまり
タスクコミッティーは誰でもなることができる
のですね。しかし、実際に立候補してタスクコミッティーに選出されたと言う例は見当たらないかもしれません。みなさん奥ゆかしいのかシャイなのか、主催者側が提示した選手ですんなり決まってしまうことがほとんどです。
タスクコミッティーになろう
タスクコミッティーになれば、タスクを決める過程やその根拠などを詳細に知ることができます。もちろん、別に秘密にする必要もないのでタスクコミッティーのまわりを囲んで話を聞いても良いのでしょうが、発言権と言う意味から言うと自身がタスクコミッティーであった方がいいに決まっています。
タスクコミッティーの良いところは
- タスク作成に参加できる
- タスクの意図がわかる
- タスクをつくると言う視点に立てる
と言うところでしょうか?
タスクコミッティーは、当日の気象データを元にして条件を予測し、その日の持てる最大のパフォーマンスを引き出した飛びによって実行しうるタスクを考え、さらに競技性を高めるために選手が選択しうるいくつかの条件を含ませ、大会のレベルに合ったものをコミッティーの合議によって決定します。
私が競技を始めた二十数年前に比べれば、気象データの精度も飛躍的に高まったこともあって、タスクの精度も相当に高くなったと感じます。しかし、タスクを成功させるのも台無しにするのもある意味
タスクセッター(タスクコミッティー)にかかっている
と言っても過言ではありません。気象を読み間違えただけでもまったく難易度が変わってしまいますので、とても難しい仕事ですが、一度は経験することが自身の視点を変える大きな経験になると思います。
いつも同じ顔ぶれのタスクコミッティーではなく、ぜひ自身で積極的にタスク決定に参画し、その過程を知ることによってレベルを上げる一助にしてもらいたいと思います。
タスクを決める要素
タスクを決める側に回ることで得られることについて考えてみます。
まず、先ほども触れたようにタスクを決めるのに最も大きな要素となるのは
気象条件
です。サーマルがない状況ではタスクも決めようがありません。この気象条件がどのような状況で、どのように推移して、パラグライダーの飛行にどのように影響するのかを総合的に判断し、その日の条件を予測します。
サーマルトップがとても高く上昇できそうならば、普段より遠いターンポイントを使うことを考えたり、午前と午後で風向きが変わるようならば、それを考慮したコースを考えたりするわけですね。条件の良い日に尾根上のアウトアンドリターンのようなタスクを作ってしまうと、それこそ「瞬殺」されてあっという間にタスクが終わってしまう可能性があります。また、良い条件と読んでより遠くの沖出しタスクを作ってはみたものの、予定よりも上がらなくて沖出しが鬼門となってしまいゴール者が出ないタスクとなることもあります。
ですが、それらは
予測した気象条件に基づいて決められたもの
ですから、仕方ない面でもあります。それよりも、この
予測した気象条件を導き出す過程に参画する
ことがとても重要なことなのです。一人で考えるのではなく複数の選手や主催者とともに考えるわけですから、参考になることも多いはずです。
次に考慮されるのは
エリアの特徴
です。それぞれのエリアでは、地形的な特徴や制約によって組めるタスクのパターンがある程度決まってしまう場合が少なくありません。私がホームとしている立山エリアもそうです。大きなクロカンタスクなどは、深い山を越えて行かなければならないので難しいですから、立山のタスクはどうしてもエリアの谷の中を周回するか、アウトアンドリターンをするか、それらの組み合わせにならざるを得ない面があります。
そんな制約の中でタスクを考えるかと言うことが、実は
レースを攻略することと同じ
なのです。タスクを考える場合には実現不可能のものは作らないはずです。どこでどれだけ上げれば次のターンポイントまで行けるとか、ここは低くても上げられるとか、エリアのポテンシャルを熟知した選手や主催者が予め基本となる攻略パターンを想定して実現可能なものを作るのです。そう言う意味から、タスクを作るのは攻略することと同じと言えるのですね。
ただし、よりチャレンジブルなタスクと言うのもあり得ます。これまでの実績だけでなく、選手の技量や機体の性能などを考慮して、従来では行えなかったタスクが実行可能か試すこともあるかもしれません。
しかし、いずれにしてもある程度の実績があってタスクは決定されるので、そのような知識を得られる良い機会になることは間違いないでしょう。
普段からもタスクを作って訓練する
タスクコミッティーは敷居が高いと思う選手は多いでしょう。いきなりエリアのこともわからないのにタスクコミッティーになるのはなんだかなぁ・・・って考えるのが普通だと思います。
そんな方は、ぜひ自身のエリアでタスクを作ってトレーニングしてください。自分なりにその日の気象条件を予測し、それに応じてどんなタスクが組めるのかを考えてみるのです。もちろん、実際にそのタスクをまわってみることも重要です。
- 自分が考えたタスクが気象条件に合致していたか
- 予定した気象条件だったか
- 必要なコースに必要なサーマルはあったか
- 難易度は予定したとおりだったか
などを確認する上でも、実際に回ってみるのが一番の検証方法です。
そして、最後に必ず行うことは
より多くの仲間と一緒にタスクを振り返ること
です。これらを行うことによって、タスクが提示されたときに想定された気象条件やタスクの意図なども読み取れるようになり、それがそのままレースのプランにつながっていきます。
選手と言う視点だけでなく、タスクセッターと言う視点を持つことによって幅広い見方が出来るようになります。それが、ファイターパイロットに求められる素養の一つではないかと思います。
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