「ファイターパイロットへの道」の第12回目です。
前回は「タスクを回ってタスクに慣れる」と言うことを話しました。
タスクに慣れてくることで、自分の弱点や課題を見つけ、それに取り組むと言うことですね。
今回は、それを一歩進めて「タスクとその回る要素」について考えてみたいと思います。
タスクとその要素
タスクは、大会においてその日の優劣を競うために設定される飛行コースであり、JPAのナショナルリーグやN2リーグ、チャレンジリーグなどリーグの選手レベルに応じたものが組まれます。また、大会の行われるエリアの特性や気象条件も、このタスクに大きな影響を与えています。
では、このタスクで何を評価しているのか?と言うことを考えてみましょう。
リザルトからわかる評価
現在、大会のレースにおける評価はGAPと言う考え方によるロジックで得点計算されています。GAPについては各自で調べてもらえればと思うのですが、簡単に挙げるとすれば
- ゴールまでのフライトタイム
- ゴールまでの先行度合
- 飛行距離
の3つであり、その日の条件がタスクにマッチしていたかどうかを見る指標として
- デイクオリティー
と言うものがあり、参加した選手の飛行距離や分布などを見て、トリッキーな条件だったかどうかなどを客観的に判定するものになっています。GAPでは、先行する選手が多くのリスクを負うと言う考えから
レースをより多く先行した選手にはそれに応じたポイントが与えられる
と言う考えも導入されています。これは、設定によって有効・無効が選べますが、最近の大会では有効になっているケースが多いです。
GAPにおけるレースの場合でより多くの得点を取るためには
- レースを常に先行し最速でゴールすること
が究極の戦術になります。
パラグライダーのフライト要素
リザルトの評価を踏まえた上で、パラグライダーのフライト要素について考えてみましょう。
タスクを回ったことで見えてくることは
- 水平移動すること(トランジット)
- サーマルポイントの見極め(サーマル発見能力)
- サーマルで上げること
の3つに集約できると言うことができます。パラグライダーのフライトと言う観点で言えば、この3つに
- テイクオフ
- ランディング
の2つが追加されることになります。
タスクをより効率よく回り、タスク速度を上げると言うことを目的にした場合には、3つの要素について改善して行く必要がある訳です。
水平速度について
水平速度は簡単に言えばパラグライダーの移動速度であり、タスクを移動する場合は対地速度であると言い換えることができます。
ターンポイント間を移動する場合に、時速30Kmで5Kmの距離を進むには無風時で10分必要です。この時間を短くしたい場合は
- 飛行速度を上げる
ことが必要になります。
それ以外にも水平速度を上げる方法としては
- 2点間の最短ルートを飛行する
と言うことも考えられます。確実に直線飛行を維持して最短ルートで次のポイントへ移動する技術が必要になると言う訳です。
しかし、これはあくまで無風であることを前提とした場合ですから、これに風向きや風の強さなどを考慮するとそう単純ではなくなります。最短ルートが向かい風100%だった場合には、アクセルで増速したとしても時間がかかるかもしれませんし、最短ルート上に風の吹き抜ける場所があるかもしれません。サーマルポイントが最短ルートを取るには大きく外れた位置にあるかもしれません。
このように、単純に移動速度を上げようとしても、様々な要素が絡み合ってくるので、タスクにおける最適ルートを考えるのは簡単ではありません。ですが、間違えないで欲しいのは
タスク全体(ゴールまで)の速度を上げるための方法
として、何が最も効果的なのかを考えることが重要であると言うことです。
サーマル発見能力
次に時間を短縮する上で重要な要素は
上がる場所(サーマルポイント)をいかに精度よく発見できるか?
と言うことになります。これが高い選手はサーマルポイントまで最短で移動することができますので、時間を短縮できると言えるでしょう。
もし、サーマルポイントがわからないまま闇雲に飛んでいたとしたら、サーマルに当たるのはまさに”運任せ”になってしまいますし、弱いサーマルを察知する毎に探りを入れなければならず無駄が多いフライトになります。結果、最悪の場合は降りてしまうことになるでしょう。
素早い判断でより早く有効なサーマルポイントを予測(発見)し、素早く移動することが重要になります。
サーマルで上げること
高度を獲得できなければ次の場所へ移動することも難しくなりますので、実はこの
- サーマルで上げる技術
が最も重要な要素と言えるかもしれません。しかも、ただダラダラと上げていては時間ばかりかかってしまうので
- 素早く確実に上げる技術
が必要になってきます。サーマルで上げていると
- 上がりの早い人
- 上がりの遅い人
が必ず存在します。みなさんも、同じサーマルで上げている時に下から来た選手に抜かれて上げ負けた経験があることでしょう。
+3m/sのサーマルを100%使って300m上昇させるには1分40秒必要ですが、もし上昇率がバラついて平均2m/sだったらどうなるでしょう?
同じ300m上昇する場合は2分30秒かかってしまう計算になります。その差は50秒です。上げきって移動を開始した時点で、先の選手が時速30Kmで移動したと仮定すれば
8.3×50=416
となり、先に上げて行った選手は400m以上先に行ってしまうのです。この差は大きいですよね?
そう言った意味において上げる速度と言うのは
時間短縮に効果がある要素
であると言えます。私も昔は
- 上げる速度
- サーマル発見能力
- 水平速度
の順序で取り組みました。
これら3つの要素を明確にし、何を改善する(取り組む)のかをしっかりと決めた上で訓練することが大切になります。
実際にはあらゆる要素が複合する
実際のタスクでは、これらの3つが複合してきます。水平移動の場合でも述べましたが、最適ルートは最短距離とは限りません。迂回しても、それが沈下しないルートならば
上げる時間を短縮できる
と言う効果が見込めますし、その沈下しないルートを発見するには
サーマル発見能力(観察力)
が問われます。沈下しないルートをしっかりとトレースするには安定した機体操縦技術も必要になります。
ですが、分解してみるとそれは結局
個々の技術や要素の複合
であり、それを克服するのは
個々の技術の習得や卓越
しかありません。ですので、最初に言った
タスクを効率よく速く飛ぶ
と言うことを実現するためには
- 要素をしっかりと明確にし
- 個別の技術を駆使して
- 総合的に時間短縮する
と言う考えをベースにして行くことが重要なのです。
要素を考えると言うことはあらゆることに当てはまります。ぜひ、この考えを常に持ってファイターパイロットを目指しましょう!!
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